ウィキペディアを磨こう

NatureはかつてWikipediaとEncyclopaedia Britannicaを比較するために両者から種々の科学分野の記事を拾い出し,出所を伏せて専門家に査読を依頼した。その結果,それぞれ重大な誤りが4:4,些細な誤りが162:123見つかった。つまり,Wikipediaのほうが誤りが若干多いものの,オーダーとしては同じであった。Internet encyclopaedias go head to head, Nature 438, 900-901 (15 December 2005)[Natureの誌面にはJimmy WalesがPowerBookをかついでいる大きな写真が載っている]。これに対してBritannica側が反論し,さらにNatureが反論している。

これは英語版Wikipediaの話。今や項目数も243万を超えた。一方,ウィキペディア日本語版は2008年6月25日に50万項目を達成したばかりである。

ウィキペディア日本語版は,WikipediaのDeflateの項目が荒れているとそのコメントで書いたように,一部の専門的な項目が英語版よりかなりレベルが低い。誤りについては修正できたと思うが,まだ英語版に比べて内容が薄い。とりあえず英語版の翻訳でいいから,どなたか加筆していただければありがたい。

日本語版については,文章の質も英語版よりかなり低いように思う。かつては JF 文書文体ガイド というものがあってLinux関係の文書の文体を整える規範となっていたが,ウィキペディアにスタイルガイドはあるのだろうか。とりあえず常体(「である」調)で書いて,「、。」で統一するというくらいだろうか。括弧は全角()だろうか半角()だろうか[日本語の文脈では全角が好ましい]。

まずは歴史的な当て字風の表記はやめよう。上のJFの文体ガイドにもあるが,「又は」は「または」,「〜の為」は「〜のため」,「出来る」は「できる」などなど,ちょっと注意すればかっこよくなるところがたくさんある。

また,ちゃんと出典を挙げよう。

ウィキペディアのスタイルマニュアル

http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83... にウィキペディア日本語版のスタイルマニュアル(の root)があります。そもそもがあまりきっちりハッキリした組版基準を提示されないまま、現在ではだいぶ細分化され、また各所のローカルルールで上書きされるなど、全体としてまとまりの無いものになりつつあります(というか既にボロボロです)。

また「wikipedia:すぐに古くなる表現は使わない」や 「Wikipedia:大言壮語をしない」をはじめとするいくつかのガイドラインがあるのですが、存在が見つけにくいのか、種々の改善されるべき項目の執筆者たちが、これらのガイドラインに従おうとすることは稀のようです。

括弧の全角半角や当て字風の表記は 「Wikipedia:表記ガイド」に基準があり、ノートによれば過去に何度か議論があるようです。半角括弧を全角にするだけの編集を好んで繰り返す人、特に数式中の括弧まで全部機械的に変換して texvc による png 画像をエラーにするような人などもいたりしますが、結局は組版についての教育を担当する部署があるわけでもないウィキペディアでは書き手の向学心やセンスに期待するよりほかないのかもしれません。

「記事の内容」よりも「参加者の善意」が(結果として記事の質が低下、あるいは内容が破壊されている場合でも)優先される場面というのを何度か見ましたので、私はいまではウィキペディア日本語版はそういうところだという目で見ています。そして、そういう変なのに絡まれないようビクビクしながらも、趣味としてのウィキペディアの編集を細々と続けています。

Re: ウィキペディアのスタイルマニュアル

ありがとうございます。こんなに詳しい表記ガイドがあることに気づきませんでした。いろいろ問題が残っているようですね。

英語の正書法は比較的簡単なのですが,日本語についてはけっこうややこしく,私が最初にTeXで組んだ本はそういうことを無視して自己流でやってしまったのですが,ちゃんと勉強すると,編集者レベルでは十分安定したルールがあり,やはりそれに従うほうが自然であることを痛感しました。ちゃんとした書籍の百科事典ならプロの編集者がそういうリライトをしてくれるのですが,ウィキペディアの場合はその点がどうしても素人っぽくなってしまいます。そういう意味では,ウィキペディアにも表記だけを正書法に直す人がいてもいいのではないかと思います(欧文や数式の括弧まで機械的に全角にされては困りますが)。

日本語の正書法

 「編集者レベルの安定したルール」は信頼できるものが文書として存在しているのでしょうか?
以前は新聞社内のルールにある程度権威があって、本も出ていたと思うのですが、今の新聞の「誘かい」とか「ら致」とかいう書き方が日本語のあり方として正しいとは思いません。
 「出来る」「呉れた」などは避けたほうがよいでしょうが、「~した時、」なんていうのは微妙ですね。
 こんなところで、よく迷います。
- 外来語、外国語をカタカナで書くか、原語で書くか。
- 読点「、」をどこにいれるか。
- 数詞を算用数字をつかうか漢数字を使うか。「1つの」?

Re: 日本語の正書法

朝日は「誘拐」「拉致」ですよね?
共同の記者ハンドブックを見てみましたが,「誘拐」「拉致」となっています。
新聞社ごとにハウスルールがあり,少しずつ違っています。
ハフマンと書くかHuffmanと書くかは,一般書か学術書かによりますので,共同執筆の場合はルールを定めておかないといけませんね。
読点の位置については,本多勝一『日本語の作文技術』がとても参考になります。
一般的には「一つの」ですが,数学書では岩波数学辞典のように「1つの」と定めているものもありますね。
「場合」の意味では「〜したとき」でしょうか。
日本エディタースクールの編集ハンドブックや,各新聞社の記者ハンドブック,ぎょうせいの公用文なんとかが参考になります。
あと,JISでは,「繰り返す」の名詞は「繰返し」となるのがルールです。

英語の正書法

英語のWikipediaではWikipedia:Manual of Styleに詳しく書かれているんですね。

コンピュータサイエンスではKnuthが,TeXbookのあちこちに書いているほか,文章の書き方の本まで出していて,それに合わせる人が多いと思いますが,一般には例えばRobert Bringhurst, The Elements of Typographic Styleといった本があって,そちらに合わせる人が多いかもしれません。例えばKnuthならTeXでJ.~F. Kennedy(HTMLならJ. F. Kennedy)と書くところを,Bringhurstの本ではhair space(J. F. Kennedy)またはthin space(J. F. Kennedy)またはスペースなし(J.F. Kennedy)でもいいとしています。この本を引用しながらWeb上での正書法を確立しようとしているThe Elements of Typographic Style Applied to the Webというサイトがあります。上記の「hair spaceまたは……」のルールについてはAdd little or no space within strings of initialsに書かれており,Unicodeのhair spaceまたはthin spaceを用いると古いブラウザではおかしくなるので,とりあえずスペースなしでいいだろうとしています。

ただし日本人がよく書くようなJ.F.Kennedyというのはルール違反です。少なくとも最後のピリオドの後には必ずスペースが入ります。

CMOS

上で書き忘れましたが,Bringhurstの本はプリプレスレベルですが,それ以前の編集者レベルで事実上の標準となっているのがThe Chicago Manual of Styleです。

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