「アメリカ心理学会では統計的有意度は廃止されたそうです」

という驚くべき内容の書き込みが群馬大学の青木繁伸先生の掲示板にあるのを見つけた。1999年の書き込みで,ソースは「又聞き」だそうである。もちろん統計的検定が廃止されたという事実はない。以下に少し書くように,いろいろな議論があることは確かであるが,伝言ゲームで「廃止された」という極端な話になるのは,メディアリテラシー(?)の題材としておもしろい。

統計の誤用については,あちこちで議論があり,なかには統計的仮説検定を「廃止」しようというような極端な主張もあることは確かである。そこで,アメリカ心理学会の The APA Board of Scientific Affairs: Task Force on Statistical Inference では,このことを議論し,1996年の Initial report(PDF)に続いて,1999年に最終レポート Statistical methods in psychology journals: Guidelines and explanations を出している(American Psychologist, Vol.54, No.8, 594-604)。この委員会には Mosteller や Tukey もアドバイザとして参加している。

このレポートを読んでみたが,もちろんどこにも統計的検定を廃止するとは書かれていない。まずはグラフを描いてみようといったことから始まって,有意か否かだけよりは p 値を報告するほうがよく,さらには信頼区間を報告するほうがいいというような,良い統計学の教科書には必ず書かれていることがうまくまとめられている。