足利事件当時のDNA鑑定の精度は?

Googleで「足利事件 DNA鑑定 "一致する確率は100人あたり1.2人"」で検索すると115件,「足利事件 DNA鑑定 "一致する確率は1000人あたり1.2人"」で検索すると4件だ。ということは多数決で100人あたり1.2人が正しいか。いや,よりセンセーショナルな前者のほうが衆人にコピペされる可能性が高いので要注意。それどころか,このような検索結果の比較はコピペバイアスを含んでいるので無意味である。

というわけで,朝日新聞聞蔵IIビジュアルで調べてみると,足利事件の1991年鑑定で用いられたMCT118という方法で,血液型も含めて偶然に一致する確率は,やはり1000人に1.2人ということである(2009年6月24日朝刊など)。現在は4.7兆人に1人。さらに,2009年6月26日の週刊朝日には「この時期の鑑定方法は試料保存などもずさんなうえ判定方法にも問題があり、千人に1・2人とされた確率が判決後に千人に約5・4人に修正されている」ともあるが,この値は他で確認できなかったので,以下では p=0.0012 とする。

さて,私が当時のDNA型鑑定で偶然に犯人にされてしまう確率は 0.12% である。このとき,「私が犯人である確率は 99.88% である」と言えるだろうか。これは「水準5%で有意な結果は,確率95%で正しい」という統計的仮説検定の誤解とも重なる。物理学の例でいえば,ニュートリノの質量が0であるという帰無仮説のもとで,現在得られているようなニュートリノ振動の観測データが偶然に得られる確率が仮に0.01%だったとすると,マスコミ的には「ニュートリノが質量を持つ確率は99.99%」なのだが,これは正しいか。

[2009-10-19追記] 「DNA確度低く、自白必須」 足利事件の地検内部資料(朝日)によれば,確率は1000人に1.244人とのこと(有効数字多すぎだが)。