第5の力

有名な物理学の速報誌 Physical Review Letters が50周年を迎え,おもしろい思い出話が Physics Today 10月号に載っていた。1986年にFischbachたちが「第5の力」を発見したという Reanalysis of the Eötvös Experiment というペーパーが Physical Review Letters に掲載されたとき,揶揄のためにパロディ編 “On Evidence for a Third Force in the Two New Sciences: A Reanalysis of Experiments by Galilei and Salviati” を投稿した人がいたのだ。有名なSokalの偽論文より前の話である。編集者は丁寧に「これで6番目の力になるので一つの力につき1人の査読者を付けました」として本当に6個の査読結果を返してきた。それらはでっちあげらしいが,別々のタイプライタで打たれていて,それぞれウィットに富んでいる。もちろんその怪しさ満載のパロディ論文は Physical Review Letters には掲載されなかったが,今回 Physics Today でお披露目された。

E. Fischbach et al. の Reanalysis of the Eötvös Experiment (Physical Review Letters, 56, 3, 1986) は,有名なエトヴェシュたちの重力の実験を再解析したところ,すごいことがわかったというものだ。これについては,かつて若気の至りで出した本『パソコンによるデータ解析入門』(技術評論社,1986)でも紹介し,解析のためのBASICプログラムも付けた。

Fischbachたちの論文の「再解析」は下の表に基づくものである:

Materials compared108Δκ103Δ(B/μ)
Cu-Pt+0.4±0.2+0.94
Magnalium-Pt+0.4±0.1+0.50
Ag-Fe-SO40.0±0.20.00
Asbestos-Cu-0.3±0.2-0.74
CuSO4・5H2O-Cu-0.5±0.2-0.86
CuSO4(solution)-Cu-0.7±0.2-1.42
Water-Cu-1.0±0.2-1.71

エトベシュたちが測定したもの(重力加速度の差)は真ん中の量で,一番右の量はFischbachたちが調べた質量当たりのバリオン数の差にあたる量である。これがエトベシュたちの測定値と統計的に疑いようもなく有意に比例するのだ(右上図)。つまり,重力が物質の組成に依存すること,あるいは未知の力が存在することは,間違いない。気になる人は統計的仮説検定をされたい。

上の表にウソはないのだが,もちろんよく考えたらうさん臭いところがあるし,その後の追試でも再現できなかった。統計的仮説検定を機械的に行っても意味がないことを示す例である。