米国での情報科学専攻の増減

New York Timesの今年4月の記事Computer Science Takes Steps to Bring Women to the Foldで情報科学(CS)に進む女性の割合が他分野よりかなり少ないことが報道されている。この傾向を改善するために,Washington大学ではWhy Choose CSE?(CSE = Computer Science & Engineering)というビデオをネットで公開して,CSはオタクっぽいものでないこと,特に女性がこの分野で活躍していることを宣伝している。女性を呼び込むだけでなく,CSの魅力を伝えるためにも有益そうだ。

ところで,このNew York Timesの記事にあるグラフを見ると,90-95年のドットコムバブル崩壊で学部卒の数が激減し,また立ち直っているように見える。しかし,以前あちこちで話題になったInterest in CS as a Major Drops Among Incoming Freshmenという記事の図1ではその後さらに激しく落ち込むフタコブラクダのグラフになっている。特に女子はほぼゼロにまで落ち込んでいる。何が違うのか。多分,卒業と入学の時点では4年のタイムラグがあり,New York Timesの記事のグラフの後に実は激しい落ち込みが来るのだろう。もっと新しい2005-2006 Taulbee Surveyを見ればよくわかる。図2の博士号取得数はウナギのぼりだが,図6の学部卒数は2004年を境として減少に転じ,図7の新入生については2000年ごろから減少が始まり2002-2005年に激減している(2006年は下げ止まりのようにも見えるが)。

New York Timesの記事によれば,CS不人気の原因の一つは高校の情報科にあるという。米国の高校のAdvanced Placement(AP)のCSはJavaプログラミングを教え,情報嫌いを大量生産しているという説がある。学問としての意義とそれを学ぶ楽しさを教えず特定の技術を教えるのは,JavaであれOfficeソフトであれ,優れた学生の学ぶ意欲を必ずしも高めないのではないか。

[追記] APのCSにはComputer Science AComputer Science ABがあり,後者はAに加えてrecursive data structuresやdynamically allocated structuresといった高度な内容を含む。APは進んだ生徒が自発的に受講するもので,日本の必履修の教科「情報」と比べられるものではないし,これがあるから情報嫌いが増えるというのは実は当たらないように思う。