二封筒の問題

問題:

スワミ(ヒンズー教の坊さん)が,一つの封筒に $x$ 円,もう一つの封筒に $2x$ 円を入れ,一方をあなたに,もう一方を相手に渡した。どちらの封筒を渡される確率も 1/2 である。あなたが封筒を開けたら $y$ 円入っていた。相手の封筒の中身を $Y$ とする。あなたは考えた。封筒は等確率で渡されたのだから,確率 1/2 で $Y = y/2$ または $Y = 2y$ のはずだ。その期待値 $(1/2)(y/2 + 2y) = 5y/4$ は,あなたの封筒の中身 $y$ より明らかに大きい。あなたは目をキラリとさせて,相手に封筒を交換しようと持ちかけた。相手も同じ計算をして,同意した。

この問題は Ronald Christensen and Jessica Utts, Bayesian Resolution of the "Exchange Paradox", The American Statistician, Vol. 46, No. 4, pp. 274-276 (1992) をほぼ原文通りに訳したものである(ただし,原文の $m$, $x$ をここでは $x$, $y$ に,ドルを円に変えた)。論文によれば,この問題の起源は M. Kraitchik, Mathematical Recreations (Dover, 1953) に遡る。Martin Gardner, Gotcha: Paradoxes to Puzzle and Delight (W. H. Freeman, 1982) は Wallet Game(財布ゲーム)と呼び,S. L. Zabell, in Causation, Chance, and Credence (Kluwer, 1988) は Exchange Paradox(交換のパラドックス)と呼んだ。

私はこの問題を別の本 Yudi Pawitan, In All Likelihood: Statistical Modelling and Inference Using Likelihood (Oxford University Press, 2001) で読んだ。答えらしいものは書いてなかった(後で,別のページに少しだけ書いてあったことに気づいた)ので,自分でいろいろ考えた(その後,Christensen and Utts の論文をちらりと見た)。

封筒の金額 $y$ は,あなたの行動に何の関与もしていないように見える。封筒の中身を見なくても,交換したほうが得だ。交換してからもう一度同じ推論をすれば,また交換したほうが得になる。何度も交換すれば,いくらでも期待値が増えるかもしれない。まさにパラドックスである。

(続き)