世論調査

ここで扱うのは、WebやTwitterで行われるネット調査や、選挙が近づくと自動音声でたくさんかかってくる選挙情勢調査ではなく、新聞社などから人間が電話をかけてくる世論調査である。一般に、ランダムに電話をかけるRDD(Random Digit Dialing)という方法が使われている。固定電話と携帯電話が使われる。固定電話の場合、電話口に最初に出る人は主婦・高齢者が多いが、出た人に尋ねるのではなく、その世帯からランダムに選んだ人に尋ねる仕組みだ。

例えば朝日新聞のRDDは、朝日新聞社のRDD調査について(2002年)という論文(オープンアクセス)や、「RDD」方式とは(2024年10月9日のアーカイブ)という記事に詳しい。ただし、後者のページは今は消えており、調査方法・質問の変遷・注意事項など(2024年11月8日)という簡略版のページにリダイレクトされる。

「RDD」方式とはの書かれた時期は不明だが、2016年に携帯電話も含めたという記述があるので、最終更新は2016年以降であろう。念のため、固定電話の場合のプロトコルを引用しておく:

 世帯に電話がつながったら、調査の趣旨を説明した後、その世帯に住んでいる有権者の人数を聞きます。コンピューターでサイコロを振る形で、その中から1人を選んで調査の対象者になってもらいます。電話に最初に出た方を対象にすると、在宅率の高い主婦やご高齢の方の回答が多くなってしまい正確な調査になりません。

 選ばれた方が不在でも、一度決めた対象者は変えず、時間を変えて複数回電話をかけます。また、すぐには応じていただけない場合でも、重ねて協力をお願いしています。これも、回答者の構成を「有権者の縮図」に近づけるためです。

 また、調査は原則午後10時まで(予約ができれば午後11時まで)行い、仕事などで帰宅が遅い方からも回答してもらえるようにしています。

我が家には、2019年2月に朝日2019年7月に読売+日経(日経リサーチ)の世論調査が来た。2月は妻、7月は私が対象で、どちらも上に書かれたプロトコルぴったりであった。

さて、朝日の場合、RDDの結果には統計学的な補正をした上で、さらに「地域別、性別、年代別の構成比のゆがみをなくす補正」をしていると書かれている。

一方、NHKの固定電話と携帯電話による電話世論調査の検証(2019年)という記事(PDF)によれば、NHKのRDDでは「抽出確率や男女年層などの属性をもとに補正するウエイト集計をおこなわず、固定電話・携帯電話それぞれの結果を単純に合計する集計方法を採用している」とのことである。3種類のウエイト集計(補正)の結果と比較し、さらに「ウエイト集計をおこなえば、必ずしも精度が高いデータが得られるというわけではない。世論調査では、そもそも調査拒否など一定程度の調査不能が出るため、調査に協力した人の回答のみにウエイトをかけて、回答の重みを大きくしたり小さくしたりすることは結果を歪める可能性がある。例えば、20代のサンプル構成の比率が低いからといって、調査に協力した20代の回答だけの重みを大きくすると、偏った特徴を強めてしまうかもしれない。」といった理由から、現在のままでよいと結論している。

また、鈴木督久『世論調査の真実』(日本経済新聞出版、2021年)という本には、「重みづけ集計をするかしないか、という方針について、マスコミ各社の間では統一されていません。実態としては、性別・年代別・地域別などで重みをつけた結果を公表している社もあります。日経は採用していません。生のままです。」と書かれており、補正しない理由として同様のことが挙げられている。

NHKが年齢補正していないことに対しては、楊井人文さんが「石破首相続投 賛成多数」 年齢補正で賛否逆転 高齢者に偏った世論調査にNHK「課題と認識」という記事で批判しておられる。

統計学的には、補正するほど偏り(バイアス)は減るが推定誤差は増えるというbias-varianceトレードオフがあるので、あまり細かい区分に分けて重みづけするのは好ましくないが、年齢を5階級に分けて補正するくらいなら利点の方が大きいのではないかとは思う。ただ、継続して聞いている質問については、計算法を急に変えるとまずい。それに、半分に満たない回答率の低さによるバイアスはどうしようもないし、回答率は選挙での投票率とほぼ比例する(若年層ほど低い)とすれば、補正しないほうが選挙結果に現れる「民意」を反映するかもしれない。

補正によってどれくらい推定誤差が増えるかについては、GPT-5に計算してもらった。単純計算では石破続投賛成48.7%(95%信頼区間 [45.8%, 51.7%])だが、補正した場合、GPT-5によれば45.0%(95%信頼区間 [41.9%, 48.2%])で、信頼区間の幅はわずかに広がる。