説明不足なのでそのうち直す。
音の物理は簡単なようでややこしく,2018年1月6日・12日には阪大,2018年2月1日には京大が,いずれも音を扱った昨年の物理の入試問題の間違いを認めた。
大学の物理屋は音といえば疎密波(圧力波)をイメージするが,高校や予備校で音を詳しく学ぶ場合,音は疎密波であると同時に変位波として扱われる。壁で反射する場合,疎密波として考えれば自由端反射(位相が変わらない),変位波として考えれば固定端反射(位相が反転)となる。壁に垂直に入射する音は,壁ぎわで疎密波は強まり,変位波は弱まる。定在波(定常波)についても,疎密波と変位波で節と腹が異なる。人間の耳や密閉型のマイクは圧力の変化に感じるが,前後開放型のリボンマイクは変位の変化に感じる。
われわれの周囲の気圧は1気圧(1013.25 hPa(ヘクトパスカル)つまり 101325 Pa(パスカル))程度だが,それが例えば $P = P_0 + a \sin \omega t$ のように時間 $t$ とともに変化すると音と感じる。周波数 $f = \omega / (2\pi)$ は,若者なら 20 Hz(ヘルツ)から 20000 Hz くらいの範囲が聞こえる。年齢とともに高い音は聞きにくくなる。音楽では,中央の A(ラ)の音の基準は 440 Hz である(これよりずらして調律することも多い)。$a$ は振幅だが,音の大きさについていうときは実効値(RMS値)$a/\sqrt{2}$ を考える。この実効値が 1000 Hz で $20\,\mu\mathrm{Pa}$(マイクロパスカル)あたりがぎりぎり聞こえる音なので,通常これを 0 dB(デシベル)の音と定める。実効値がこの10倍の音が 20 dB,100倍の音が 40 dB,1000倍の音が 60 dB である。日常の音(テレビから 1 m 離れたくらいの音)は 60 dB くらい,つまり実効値 $20\,\mathrm{mPa}$(ミリパスカル)程度である。聴力検査ではオージオメーターという機械で一般に 1000 Hz 30 dB,4000 Hz 40 dB の音をヘッドホンで聞く。
音による空気の密度 $\rho$,圧力 $P$,変位 $\chi$ の関係は,Feynman Lectures on Physics の 47 Sound の 47.2 以下で初等的に詳しく扱われている。
音による圧力の変化 $\Delta P$ と密度の変化 $\Delta \rho$ には比例関係
\[ \Delta P = \kappa \Delta \rho \]がある。$x$ 軸方向に伝わる音を考えると,空気分子の $x$ 軸方向の変位 $\chi(x)$ が $x$ とともに変化すれば,密度 $\rho$ は
\[ \Delta \rho = - \rho \frac{\partial \chi}{\partial x} \]だけ変化する。これと,運動方程式
\[ \rho \frac{\partial^2 \chi}{\partial t^2} = - \frac{\partial P}{\partial x} \]から,波動方程式
\[ \frac{\partial^2 \chi}{\partial x^2} = \frac{1}{v^2} \frac{\partial^2 \chi}{\partial t^2}, \qquad \frac{1}{v^2} = \kappa \]を得る($v$ は音速,常温で約 340 m/s)。この解は,例えば
\[ \chi = a\sin(\omega(t \pm x/v)) \]である。
理想気体では $PV = nRT$ の関係があり,温度一定なら圧力 $P$ と体積 $V$ は反比例する。密度 $\rho$ は体積に反比例するので $P \propto \rho$ という比例関係があると Newton は考えたが,Laplace はこれが間違いであることを示した。実際,空気中の分子の平均自由行程は Wikipedia の mean free path によれば 68 nm(ナノメートル)ほどだが,音の波長はこれよりずっと長く,等温過程ではなく断熱過程と考えられる。この場合,$P \propto \rho^{\gamma}$ という関係になる。したがって
\[ v^2 = \frac{\gamma P}{\rho} \]空気中の音速を入れて計算すれば,$\gamma \approx 1.4$ である。正弦波の解を入れて振幅を調べれば
\[ \frac{\Delta P / P}{(\partial \chi / \partial t) / v} = \gamma \]を得る。$\Delta P / P$ が実効値で $20\,\mathrm{mPa} / 10^5\,\mathrm{Pa} = 2 \times 10^{-7}$ 程度とすれば,空気の変位の速度も音速の $10^{-7}$ 倍のオーダーである。
このことを表すアニメーションをこちらで試し中だが,あまりうまくできていない。