相関関係がなければ因果関係もない?

相関関係があっても(直接の)因果関係があるとは限りません。直接の因果関係がなくても、交絡のような別の因果関係がからめば相関関係が生じますし、単に偶然の相関関係であることもあります。これらについては相関関係と因果関係疑似相関のところで詳しく述べましたので、繰り返しません。

では、「因果関係があれば相関関係がある」や、その対偶「相関関係がなければ因果関係はない」は正しいでしょうか?

実は、これも必ずしも正しくありません。相関関係が(ほぼ)なくても(直接の)因果関係があることはありえます。

例えば、疑似相関のところでも挙げた「ワクチン接種」と(感染した場合の)「重症化」の関係を考えてみましょう。ワクチン接種すれば重症化しにくいという(直接の)因果関係がありますが、(少なくともある時期においては)ワクチン接種するのは高齢者が多く、高齢者は(感染した場合に)重症化しやすいという関係もあります。この二つの関係は逆向きなので、打ち消しあって、相関関係がほぼ見えなくなることがありえます。それでも因果関係はあります。

このような複雑な例を考えなくても、因果関係があってもその結果としての相関関係が非常に小さく、標本誤差などに隠れて見えなくなる(統計的に有意な相関関係が観測されない)ことは、科学の研究においてしょっちゅうあることです。有意な相関関係が得られなかったからといって、因果関係はないと結論づけるのは、科学的な態度とは言えません。

何かがあることの証明は可能でも、ないことの証明(消極的事実の証明)は一般に不可能ですので、「悪魔の証明」といわれることもあります。

「ないことの証明」の議論は、最初の話にも関係します。AとBに相関関係があったという論文が出たら、それはCという交絡因子があってC→A、C→Bという因果関係があるからで、A→Bという因果関係はないという批判がされることがありますが、これとて、交絡因子があったとしてもA→Bという因果関係がないことの証明にはなりません。A→Bという因果関係がなくても説明できるということでしかありません。